教育法規あらかると

2018年8月30日更新

教育法規あらかると 第85回

成人年齢の引き下げ

 6月13日、成人年齢を20歳から18歳へ引き下げる民法改正案が、参院本会議で自民、公明、維新などの賛成多数で可決、成立した(施行は2 0 2 2 年4月1日)。成人年齢の改正は、1876(明治9)年の「太政官布告41号」で満20歳とされて以来、約140年ぶりとなる。

少年法の適用年齢が課題に

 今回の民法改正は、2007年に制定された「日本国憲法の改正手続に関する法律」に端を発する。同法は、国民投票権を18歳以上とすると定め、附則で「選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」と規定した。
 この規定を受けて、15年6月に公選法が改正され、投票権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた。これに続いて、今回、民法の改正が行われたわけである。

 現行民法は、年齢20歳をもって成年とすると定めている(4条)。そして、未成年者が、法律行為をするには法定代理人の同意が必要であり(5条1項)、同意のない法律行為は取り消すことができると規定している(5条2項)。成人年齢の引き下げは、未成年者取消権の喪失となる。
 未成年者取消権が喪失すると、経験不足の若者が悪質業者の不当な勧誘行為等による被害を受ける恐れがある。このため、政府は、成人年齢引き下げの民法改正とともに、消費者契約法の改正を行った(6月8日成立)。同法の改正は、契約解除ができる「不当な勧誘行為」の範囲を広げ、例えば、不安をあおる商法や恋愛感情を利用するデート商法など「困惑する状況で結んだ契約」の取り消しを可能にする規定を盛り込んでいる。また、事業者に対し、契約条項について解釈に疑義が生じない明確で平易なものとなるよう配慮すること、消費者の知識・経験を考慮して必要な情報を提供することについて努力義務を課している。

 また、成人年齢の引き下げは、飲酒・喫煙の禁止年齢や競馬・競輪等の投票券の購入年齢の扱いに影響する。この点については、青少年の健全育成等の観点から、現行通り20歳とするための所要の法整備を行っている。

 最大の課題は少年法である。現行の少年法は、適用年齢を「20歳に満たない者」と定めている(2条)。成人年齢に合わせて、少年法の適用年齢の引き下げが課題となるが、これについては、目下、法制審議会で検討が行われている。
 もともと少年法の適用年齢は、選挙権年齢などとの統一性の観点から設定されたものではない。精神的に未成熟で可塑性に富むことを考慮して、刑罰ではなく教育的な措置である保護処分を優先させることが適当として設定されたものである。このため、少年法の適用年齢の引き下げは慎重に検討すべきとする意見が根強い。
 1922年に制定された旧少年法は、適用年齢を18歳未満としていたが、48年に新しい少年法を制定する際、20歳未満にした経緯がある。つまり、現行少年法は、20歳未満の者は、刑罰を科すより保護処分によって教化を図るべきという理念に立っている。この理念を重視する関係者は、現行少年法において、家庭裁判所が少年に刑事責任を問うことが相当と認める場合、事件を検察官に送致し、刑事裁判所に起訴する制度が設けられていることなどを挙げて、少年法の適用年齢の一律引き下げに反対している。

 一方、18歳以上の少年に選挙権が与えられ、大人としての権利や自由を獲得する以上、それに伴う義務や責任を引き受ける必要があるという意見や諸外国では刑事手続における少年年齢を18歳未満と定めているところが多いことから年齢の引き下げに賛成の意見も少なくない。法制審議会はどのような結論を出すか。

国立教育政策研究所名誉所員 菱村幸彦
出典:内外教育 2018年7月6日号

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