教育法規あらかると

2018年12月13日更新

教育法規あらかると 第89回

学校における医療的ケア

 先ごろ、医療的ケアを必要とする男子小学生とその両親が、学校に医療的ケアに必要な吸引器具を配備していないことや、学校が登下校や遠足に保護者の付き添いを求めたことは、障害者差別解消法に違反するとして、地元自治体を相手に、吸引器具の購入と慰謝料など計330万円の支払いを求める訴訟を提起したというニュースが流れた(9月12日付産経新聞等)。本訴訟の是非は、裁判所の判断に待つこととし、ここでは学校における医療的ケアの対応等について取り上げる。

たん吸引など特定行為を合法化

 近年、インクルーシブ教育推進の流れの中で、特別支援学校だけでなく、小中学校にも医療的ケアを要する児童生徒が在籍するようになり、学校における医療的ケアが課題となっている。文部科学省の調査(2017年度)によると、医療的ケアを要する児童生徒数は、公立の特別支援学校に8218人、小中学校に858人在籍している。

医療的ケアとは、たんの吸引、胃ろうの経管栄養、気管切開部の衛生管理、人工呼吸器の使用、導尿などの医療的介助行為をいう。医師免許を持たない者が、医行為を反復継続して行うことは、医師法で禁止されている。このため、特別支援学校等において、たんの吸引や経管栄養等を行うことは、形式的には法令違反となるが、厚生労働省は局長通知(04年10月20日)で、実質的違法性阻却論(注)に基づき、やむを得ない措置として容認してきた。

 その後、11年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が改正され、一定の研修を修了し、都道府県知事に「認定特定行為業務従事者」として認定された者は、医行為のうち五つの「特定行為」(①口腔内の喀痰吸引②鼻腔内の喀痰吸引③気管カニューレ内の喀痰吸引④胃ろう又は腸ろうによる経管栄養⑤経鼻経管栄養)を行うことが合法となった。学校の教職員も認定特定行為業務従事者の認定を受けて、特定行為について医療的ケアを行うことができる。

 法改正を受け、文部科学省は、初等中等教育局長通知「特別支援学校等における医療的ケアの今後の対応について」(11年12月20日)を出して、(1)特定行為は、主治医の指示書の下に看護師を中心に教員等が連携協力して当たること(2)認定特定行為業務従事者となる者は、対象となる児童生徒の障害の状態等を把握し、信頼関係を築いている教員が望ましいこと──などを示した。

 さらに、16年に児童福祉法が改正され、医療的ケア児に対する支援規定が設けられた。すなわち、同法56条の6、2項は、地方公共団体の責務として、日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児について、適切な保健、医療、福祉、教育等の支援が受けられるよう「必要な措置を講ずる」努力義務を定めている。

 改正法の施行に際し、厚労省、文科省、内閣府は共同通知(16年6月30日)を発出しているが、教育分野では、医療的ケア児と保護者の意向を可能な限り尊重し、その教育的ニーズに一層適切に応えるよう教育委員会等に配慮を求めている。

 こうした状況を踏まえて、文科省は、17年に有識者会議を設置し、学校における医療的ケアの在り方について検討を進め、本年6月に「中間まとめ」を公表した。中間まとめは、学校における実施体制について、(1)「実施要領」を策定すること(2)関係教諭、養護教諭、看護師、学校医による「安全委員会」を設置すること(3)主治医、学校医、医療的ケア指導医の指導助言を求めること(4)医師が近くにいない看護師の不安を解消する措置を講ずること(5)保護者の付き添いは真に必要な場合に限ること──などを提言している。
(注)形式的には違法行為であっても、実質的に法益侵害を上回る利益がある場合、違法としないとする法理論。

国立教育政策研究所名誉所員 菱村幸彦
出典:内外教育 2018年11月16日号

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