教育法規あらかると

2018年6月21日更新

教育法規あらかると 第83回

性教育の適否

 本年3月、東京都議会で自民党議員が区立中学校で行われた性教育の授業を問題視したことを受け、都教育委員会が区教育委員会を通して授業内容を調査した結果、学習指導要領に照らして不適切と判断し、区教委を指導することとした、というニュースが流れた(3月24日付朝日新聞)。

指導要録違反の断定は難しい

 新聞報道によると、経緯はこうだ。足立区の公立中学校で総合的な学習の時間に、高校生の中絶件数が急増している現実や正しい避妊の仕方等を話し、子どもを産み育てられる状況になるまで性交を避けるように指導した。都教委は、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」の言葉は、中学校指導要領になく、「中学生の発達段階に応じた性教育として不適切」と判断した。しかし、区教委は、この授業は10代の望まぬ妊娠や出産を防ぐため、地域の実態や保護者のニーズに即して行われたもので、「不適切とは思っていない」と反論している。

 中学校指導要領(保健体育)は、第3学年の指導内容として「思春期には、内分泌の働きによって生殖にかかわる機能が成熟すること。また、成熟に伴う変化に対応した適切な行動が必要となること」と示した上で、「内容の取扱い」として「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする。また、身体の機能の成熟とともに、性衝動が生じたり、異性への関心が高まったりすることなどから、異性の尊重、情報への適切な対処や行動の選択が必要となることについて取り扱う」と示している。
 さらに、中学校指導要領解説(保健体育編)では、エイズおよび性感染症の予防について「その主な感染経路は性的接触であることから、感染を予防するには性的接触をしないこと、コンドームを使うことなどが有効であることにも触れるようにする」と述べ、性教育の指導に当たっては「発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である」と説明している。

 これらの指導要領や解説書の記述からは、どちらの言い分が正しいか明確でないが、15年前に性教育の在り方をめぐって裁判となった都立七生養護学校事件の東京高裁判決が参考となる。
 同裁判では、争点の一つとして(1)小学部低学年の児童に性器名を読み込んだ「からだうた」を歌わせたこと(2)小学部高学年の児童に人形を使って性交について指導したこと(3)コンドームの装着の仕方を教えたこと──等が指導要領違反となるかどうか争われた。
 東京高裁判決(2011年9月16日)は、性教育として何が優れているかは、教育の専門的知識経験を踏まえた議論で決すべきことであり、本判決では、指導要領に反する違法なものであるかどうかに限って判断するとした上で(1)指導の内容や方法は、指導要領の大枠を逸脱しない限り教員の広い裁量に委ねられていること(2)教員の指導が指導要領に違反すると断ずるためには、裁量の範囲を逸脱していることが認められなければならないこと(3)発達段階に応じた性教育ということが指導要領や手引等に多用されているが、具体的内容を示した記述はなく、極めて多義的であること──等に照らして、「本件性教育を指導要領に違反すると断ずることはできない」と判示している(最高裁の上告棄却で高裁判決が確定)。

 七生養護学校における性教育は、小学部の授業としては、発達段階にそぐわないと思うが、東京高裁はそれをも指導要領違反と断定することはできないとしている。義務教育段階の性教育の在り方は難しい。学校現場の無用な混乱を避けるため、指導要領または解説書で「発達段階に応じた性教育」の在り方について、もう少し具体的に示す必要があるのではないか。

国立教育政策研究所名誉所員 菱村幸彦
出典:内外教育 2018年4月20日号

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