教育法規あらかると

2018年10月18日更新

教育法規あらかると 第87回

学力調査と成果主義

 吉村洋文大阪市長は、市の全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)の平均正答率が、政令指定都市20市の中で最下位にあることを問題視し、学力調査の正答率に数値目標を設け、達成状況に応じて、校長や教員のボーナスや学校の配分予算に反映させる成果主義の導入を表明し、波紋が広がっている。この問題を法的観点から吟味する。

過度の競争で弊害を招く恐れも

 第1は、学力調査活用の権限である。地方教育行政法21条17号は、「教育に関する調査」は教育委員会の権限と規定している。従って、学力調査の実施や活用を決めるのは教育委員会の権限である。このことは文部科学省の「全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(以下、実施要領)でも明記している。ただし、地方教育行政法は、首長と教育委員会が協議・調整する場として総合教育会議の設置を定めているので(1条の4)、総合教育会議において市長の意向を教育行政にある程度反映させることは可能である。
 特に地方自治法は、予算の編成と執行を首長の権限と定めている(149条)。指定都市である大阪市の教育予算の編成と執行は市長の権限に属するから、市長が学校の予算について一定の方針を示すことはあり得る。

 第2は、人事評価との適合性である。実施要領は、学力調査の目的について①教育施策の成果・課題の検証と改善②学校における児童生徒への教育指導の充実と学習状況の改善──と示しており、人事評価への利用は想定していない。
 また、地方公務員法は「任命権者は、人事評価を任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用するものとする」(23条)と規定している。ここでいう人事評価は、個々の職員の能力や業績を個別に評価し、それを給与等に活用することを意味している。学力調査の正答率によって、当該学校の教員を一律に評価し、手当の増減を決めることは、地方公務員法の規定の趣旨に反する。
 さらに、成果主義が学力調査の成績の向上につながるかは疑問である。中室牧子慶應義塾大学准教授は、米国テネシー州で数学教員を対象に生徒の成績上昇に最大1万5000ドルのボーナスを支払う成果主義を導入する実験を行ったが、生徒の成績の上昇は見られなかった事例を紹介し、成果主義が学力向上につながるエビデンスは少ないことを明らかにしている(「『学力』の経済学」)。

 第3は、成果主義の弊害である。学力調査の成績を過度に重視すると、不正行為を招きやすい。かつて学力調査の実施時に、成績の良くない生徒を欠席させたり、学力調査中に生徒にヒントを与えたりする事例が問題となったことがあった。不正行為に至らないまでも、学力調査の過去問学習に特化したドリル型授業を重視するなど、新学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」から外れた指導が行われる恐れもある。
 学力調査旭川事件の最高裁判決(1976年5月21日)は、学力調査を適法と判示しているが、学力調査が①成績競争の風潮を生み教育上好ましくない場合②教師の自由で創造的な教育活動を畏縮させる恐れがある場合③学力調査の内容が特別の準備を要する場合──等には、違法となる可能性があることを示唆している。

 実施要領も「調査により測定できるのは学力の特定の一部分であること、学校における教育活動の一側面であることなどを踏まえるとともに、序列化や過度な競争が生じないようにするなど教育上の効果や影響等に十分配慮することが重要である」と注意を促している。
 学力調査の結果と家庭の経済状況が密接に関係していることはすでに検証済みである。子どもの貧困率、生活保護率、就学援助率等が高い教育困難校に勤務する教員が、給与等で不利益を受けるのは、行政の公平性に反する。

国立教育政策研究所名誉所員 菱村幸彦
出典:内外教育 2018年9月14日号

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