教育法規あらかると

2018年9月20日更新

教育法規あらかると 第86回

トランスジェンダーの受け入れ

 7月10日、お茶の水女子大学は、「トランスジェンダー」の学生を2020年度から受け入れる方針を発表した。津田塾大、日本女子大、東京女子大、奈良女子大でも同じ方向で検討が進められているという(7月10日付朝日新聞)。

日本学術会議も入学保障を提言

 今回の民法改正は、2007年に制定された「日本国憲法の改正手続に関する法律」に端を発する。同法は、国民投票権を18歳以上とすると定め、附則で「選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」と規定した。
 この規定を受けて、15年6月に公選法が改正され、投票権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた。これに続いて、今回、民法の改正が行われたわけである。

 今回の決定は、性的マイノリティーの権利保障の一環である。性的マイノリティーとは、一般に①L(レズビアン=女性の同性愛者)②G(ゲイ=男性の同性愛者)③B(バイセクシャル=両性愛者)④T(トランスジェンダー=性的違和)を意味する。このうちLGBは、性愛の対象が女性か男性かという「性的指向」を表すのに対し、トランスジェンダーは、身体的(生物学的)性別と心理的性別の自己意識(性自認)が一致しないケースをいう。その意味でトランスジェンダーは、性的指向を表すLGBとは区別される。
 お茶の水女子大は、これまで学則で入学資格を「女子」と定め、女子とは「戸籍上の性」としてきた。今後、出願の要件を「戸籍または性自認が女子」にするという。性自認の確認方法として、どのような方策をとるかは、今後、学内の委員会で検討するとしている。

 体の性と心の性が一致しないケースには、「性同一性障害」があるが、これとはどう違うのか。
 性同一性障害は、医学上の診断名で、トランスジェンダーのうち、医療的に性転換を行った者あるいはそれを望む者が該当する。つまり、トランスジェンダーは、体と心の性的違和があるが性転換までは望まない者をいう。トランスジェンダーは、性同一性障害より広い概念である。
 性同一性障害については、03年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が制定されている。同法は、性同一性障害者の定義として、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者」であって、2人以上の専門医の診断が一致しているものと規定している(2条)。性同一性障害者が一定の要件に該当する場合、家庭裁判所の審判によって戸籍上の性別を変更することが認められている(3条)。
 文部科学省は、通知「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(平成27年4月30日)を出して、性同一性障害の児童生徒に対して、その心情等に配慮し、必要な支援を行うよう要請している。学校生活における支援として、例えば、①自認する性別の衣服や体操着の着用を認めること②職員トイレや多目的トイレの利用を認めること③校内文書(通知表等)を児童生徒が希望する呼称で記すこと④体育において別メニューを設定すること⑤水泳では上半身が隠れる水着の着用を認めること──等の参考例を示している。
 また、16年には教職員に向けた手引「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について」を公表している。ただし、通知も手引も性同一性障害の児童生徒の入学の扱いについては言及していない。

 昨年、日本学術会議の法学委員会は、提言書「性的マイノリティの権利保障をめざして」をまとめ、婚姻、教育、労働等について性的マイノリティーの権利保障に向けた提言を行っている。教育分野では、修学保障、ハラスメント防止、在籍保障、入学保障について提言しており、その中で「『文科省通知』にしたがって性自認に即した学校生活を保障されているにもかかわらず、女子校/男子校や女子大に進学できないとしたら、それは『学ぶ権利』の侵害になる」と指摘している。お茶の水女子大の決定は、日本学術会議の提言を踏まえたものと言えよう。

国立教育政策研究所名誉所員 菱村幸彦
出典:内外教育 2018年8月3日号

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